龍潭譚背景イラスト

龍潭譚 Tyutandan IzumiKyoka × GakuNakagawa

インタビュー

人間・泉鏡花の持つ魅力とは?

泉鏡花記念館に来てからは、人としての泉鏡花にも興味を持つようになりました。それまでは、作品が好きで追いかけているのであって、作家個人にはほとんど興味はありませんでした。ところが、鏡花の生家跡であるこの場所で仕事をしながらいろいろな作品をさらに深く読みこんでいくうちに、泉鏡花という作家の核みたいなものが見えてきて。そのきっかけになったのが『露宿』という関東大震災直後に書かれた体験記的なエッセイです。

東日本大震災後に注目されたのでご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、私はもともとこのエッセイが好きでした。泉鏡花といえば、幻想的な作品を書いているから「人間の世界に対して斜に構えている」とか、厭世的なイメージで捉えられることも多いのですが、『露宿』を読んでいると人間をすごく信じている人なんだなと思うんですね。

人間は本来は美しいものなんだけれども、現実世界ではそうなれないこともある。『夜叉ヶ池』などの作品では、美しい心を持つ人間を見守る妖怪がいて、実はその妖怪たちもかつて美しい心を持った人間だったのだけれど、現実世界の障害によって「あちら側」に行ってしまったという描き方がされています。今までは、これらの作品を通して「人間社会を批判している」という見方がされてきましいたが、私はそうではないと思います。

『露宿』のなかで、鏡花は「震災という自然の災害の前では無力だけれども、東京を焼きつくす炎を消したのは人の心の力だ」というようなことを書いています。それを読んだとき、鏡花の本質はここにあるんじゃないかと思えたんです。つまり、人間というのは美しく、強いものだと信じていて、それをずっと書いていた人なのかなあって。真のロマンチストですよね。