龍潭譚背景イラスト

龍潭譚 Tyutandan IzumiKyoka × GakuNakagawa

インタビュー

“平成の奇書”はいかにして生まれたのか?イラストレーター×僧侶 中川学ロングインタビュー

若き日の泉鏡花の名作『龍潭譚りゅうたんだん』が、“平成の奇書”としてつややかによみがえった――
手がけたのは、イラストレーターとして国内外で活躍する中川学さんを中心とした関西の気鋭のクリエイターたちだ。妖しくも美しい鏡花の世界をポップかつ艶やかに再現した絵本は、一冊ずつ錫箔すずはくを手で(!)貼って装丁。本の最後には、手彫り細工のようなトムソン抜きのつつじの花に、物語世界をイメージした音を奏でるCDも隠されている。印刷会社をして「もう、このクオリティでの増刷はムリ!」と言わしめた刷りあがりの完成度もタダものではなく、参加クリエイターたちのこだわりが随所にキラキラと結晶化した“作品”だ。

しかし、200冊限定で作られたこの絵本、仕上がりも豪華ならお値段もまた1冊3万円(!)と「超」がつくほど豪華である。今の時代に、どうしてここまで贅沢な絵本を作ることになったのだろうか?中川学×泉鏡花による『龍潭譚』制作に関わったクリエイターたちにその「こだわり」を聴いてみよう。まずは、“首謀者”であるイラストレーター中川学さんに、泉鏡花と『龍潭譚』そして絵本化にかけた思いをインタビューで伺った。

初の東京個展で『龍潭譚』を選んだワケ

今回、絵本にした『龍潭譚』の絵は、2008年に東京で初めて個展をしたときに描いたものなんです。南青山ギャラリーハウスMAYAという、イラストレーターの登竜門的なギャラリーでの個展でしたし、挿絵の仕事がもらえるようなイラストを見せようと思って。題材を探すうちに、ふと『龍潭譚』のことを思い出しました。

泉鏡花作品との出会いは中学生の頃でした。当時の僕は妖怪好きの少年で、水木しげるさんの作品のような妖怪ものの漫画を描いていたのですが、「妖怪の世界がこんなに美しく描けるんだ!」という驚きがありました。なかでも『龍潭譚』は、改めて、「これはいったいどんな風景なのかな」と思って読んでいると、場面ごとにキメの絵が浮かんでくるほど映像的な文章で綴られていて。お化けや着物の女性、ちょっとしたスペクタクルシーンまで、僕の描きたい素材が全部あるし、ちょっと仏教的なエピソードも入っている。文章もあまり長くないので、絵と文章の一体化もできるので個展のテーマとしてピッタリだったんですね。

『龍潭譚』は、千里ちさとという少年が魔に魅入られて異世界に迷い込んで戻ってくる、いわゆる“神隠し”を描いた物語なのですが、読みこんでいくと単なる子どもの神隠しの話じゃなくて、「神隠しとはなんぞや?」というところまで描いたものだとわかってきて。泉鏡花は、異世界に迷い込むという怪奇な出来事をあくまで現実世界の出来事として考えていたんじゃないかと思います。あくまで心の問題として捉えていて、そのあたりがすごく現代にも響くんじゃないかとも考えました。